<1回目>
レ「…ジャン?どうしたの?こんな時間に」
ジ「いえ…ちょっと外の空気を吸いたくて…」
レ「そう…私もよ…」
ジ「そうですか…(…か、会話が続かないぞっ!)…え、え〜と…」
レ「うろうろしててもしょうがないでしょう。よかったら、座らない?」
ジ「は、はぁ…それじゃ、失礼します… …」
レ「…」
ジ(…うう、緊張するなぁ……いつもは、もうちょっと楽に話せてたと思うんだけど…会話…会話…)
「あ、あの…レイナさんは…」
レ「ん?」
ジ「その…強いんですね」
レ「…?ふふっ、どうしたの? いきなり…」
ジ「その…りりしくて、格好よくて…男の中のおと… …わっ…!」
レ「…ん? 男の中の男?」
ジ「違いますっ! 口がすべっ…たんでもなくてっ!それが言いたいんじゃなくてっ!」
レ「ん? ふふふ… 女としての魅力が無いって事?」
ジ「え〜、その…ええと、ええと〜っ…」
レ「…ふふ… さぁ、冷えてきたわ。そろそろ寝ましょう」
ジ「は、はい…」
<2回目>
レ「…あら?ジャン、また会ったわね」
ジ「あ、すみません…お邪魔でしょうか…?」
レ「ううん、そんな事ないわ。ここは、私だけの場所と言う訳でもないしね」
ジ「は、はぁ…」
レ「遠慮しないで座って」
ジ「じゃ、じゃあ、失礼します…」
レ「…」
ジ「… その…レイナさん…」
レ「なあに?」
ジ「この前の夜は…すみません」
レ「…?」
ジ「『男の中の男』とか言ってしまって… その… 変な意味じゃ…」
レ「いやだ! そんな事、まだ気にしてたの?…まあ、私もあの返しは無かったかな? ふふふ…」
ジ「男とか女とか、そういうんじゃなくて… その、人として憧れると言うか…」
レ「ふうん…?」
ジ「う、うまく言えないんですが…」
レ「女としての魅力が少ない、…って事かしら?」
ジ「い、いいいいっ、いえっ! 決してそんな意味じゃ!」
レ「冗談よ。…ふふふ」
ジ「(僕も…)」
レ「…ジャン?」
ジ「(僕も…レイナさんくらい強ければ…)」
レ「どうしたの? 黙り込んじゃって…」
ジ「…そろそろ…冷えてきたので、戻ります」
レ「あ…」
<3回目>
レ「…こんばんは、ジャン。」
ジ「……!レイナさん!?こ、こんばんは…あ、あの…何か?」
レ「いえ……この前の夜の事を謝りたくて…」
ジ「え?」
レ「真面目に私の力の事を褒めてくれたのに………ごめんなさい、ジャン…」
ジ「い、いいんです!そんなこと…」
レ「私も、思い上がらない程度にプライドは持つ様にしているわ……でも、それも程度の問題…あまり周囲が持ち上げてくれると、逆に自分はまだまだだ、ってつい引っ繰り返したくなっちゃう…ジャンはお世辞じゃなくて、まっすぐ褒めてくれたのに…ごめんなさいね。」
ジ「そんなっ……謝らないで下さい。あの…それより……」
レ「……?なあに?」
ジ「ええと…聞いてもいいですか?」
レ「ええ、いいわよ。」
ジ「…レイナさんは……その力を、どうやって手に入れたんですか?」
レ「………そうね……また、はぐらかす様で申し訳ないけど……力はあくまで手段だと思う。だから、どうやって力を手に入れるかは二の次だと思うの…」
ジ「……」
レ「いつも一番に考えているのは…その力で何をするか…かしら。」
ジ「何を…するか。」
レ「私は、この力を使って力の弱い人たちを守りたい。みんなの剣になりたい。…こんな答えじゃダメかしら?」
ジ「い、いえ……はい!ありがとうございました!」
レ「ちょっと冷えてきたかしら…?話し込んじゃったわね。」
ジ「はい…じゃ、そろそろ。」
レ「お休みなさい。」
ジ「(僕は……)」
<4回目>
レ「こんばんは。最近よく会うわね」
ジ「こんばんは。…ええ、その……レイナさんと色々お話したくて…」
レ「…そう…ね……私も…かしら」
ジ「僕と!? 僕がレイナさんと話したいのはわかりますが… レイナさんみたいな凄い人が、僕と?」
レ「…凄いって、私のどこが凄いと思うのかしら?」
ジ「そりゃ…剣の腕とか…それだけじゃなくて、考え方、生き方とか… もう全てが!」
レ「ん〜…じゃ、またイジワルな聞き方になるけど…
仮に… 仮によ? 私が、ジャンより力が弱かったら…私達が会話する事は、無駄な事かしら?」
ジ「ええっ!? そんな事は…」
レ「仮に、よ」
ジ「う〜ん…どうなのかな…? でも、得るものは少ないんじゃないかな?」
レ「私は弱いから、きっと別の方法でジャンに追いつこうとするわ」
ジ「別の方法で?」
レ「そう…そして、それはジャンに無いもの。」
ジ「…そう考えると…確かに得るものはありそうですね」
レ「まぁ、もちろん損得だけで話をするのも味気ないものだけどね」
ジ「…うん、確かに あははっ…」
レ「ふふふ… ねえ、ジャンに出来て私に出来ない事って何かしら?」
ジ「えっ!? そんなもの、ある筈ないですよ!」
レ「そうかしら…?」
ジ「そうですよ… …そう…なのかな?」
レ「あなたにしか出来ない事。次に逢う夜までに、答えが出てると良いわね」
ジ「…え? そ、そうですね。…考えてみます」
レ「それじゃね。…お休み」
ジ「(僕にしか出来ない事…か…)」
<5回目>
レ「こんばんは。」
ジ「あっ…こ、こんばんは。」
レ「良い晩ね……戦いばかりの昼間とは、別世界みたい…」
ジ「そ、そうですね……」
レ「くすくす……」
ジ「なっ、なにか楽しい事でも?」
レ「そうね…ジャンの慌てっぷりがおかしくて…ごめんなさい。」
ジ「人が悪いなぁ〜!」
レ「ごめんなさいってば!…でも、その様子だと…見つからなかったのかしら?」
ジ「…やっぱり、思いつきませんよ…」
レ「そう?」
ジ「…はい……だって、体力も無いし、頭も回る方じゃないし…僕に出来る事なんて何にも…」
レ「いま…今できる事よ。」
ジ「…と言っても………」
レ「何も、この国の王様になれ!…なんて凄い事じゃないわ?今、できる事よ。」
ジ「いま……う〜ん……」
レ「……ジャン、あなたは、この旅で何をしたいと思ってる?」
ジ「目的…ですか?ん〜、人を助ける…?」
レ「どんな人を?」
ジ「え…えーと…その…」
レ「キュート、よね?」
ジ「……!……でも……僕には、お嬢様を助けられるだけの力は無いし……」
レ「腕力や知力だけが力じゃないわ?あなたには、それに気付いて欲しい……」
ジ「……!」
レ「さあ、そろそろ冷えてきたわ。お休みなさい。」
ジ「……はい。お休みなさい。(お嬢様の為に…………今、できる事…か…)」
<6回目>
ジ「こんばんは、レイナさん。」
レ「こんばんは。…良い事あった?」
ジ「え?まあ…そうですが、どうして解りましたか?」
レ「今夜は、ジャンの方から声をかけてくれたわ。」
ジ「ああ…そうですね。でも…あれ?僕の方から声をかけたの、初めてでしたっけ?」
レ「ええ……こうやって夜に逢う度に良い顔になってるみたいよ?」
ジ「や、やだなあ…からかわないで下さいよ!」
レ「反省したもの。もう、からかったりしないわ。」
ジ「あはは、恐縮です。」
レ「…それで?どんな良い事があったのかしら?」
ジ「そうですね……レイナさんのおかげで、何となく解った気がします。」
レ「良かったら、聞かせてもらってもいい?」
ジ「……はい!……僕は力も無いし、頭も良くありません。そんな僕でも、お嬢様の力になれるのか?それをずっと考えていました。そして、こうやってレイナさんと夜にお話をさせてもらって解った事…僕は微笑みます!お嬢様の側で…」
レ「…そう。」
ジ「お嬢様が辛い時、苦しい時…僕は横で、いつも微笑みます。お嬢様の心が安らかになる様に。僕自身が辛い時でも、絶対に辛い顔はしません。お嬢様まで辛くなってしまいます。…これが今、僕に出来ること。…こ…こういうのじゃ…ダメでしょうか…?」
レ「……素敵ね。私もあなたのような従者が欲しかったわ。」
ジ「そ、そんな…!僕なんかがレイナさんの…」
レ「でも残念!あなたは、キュートの従者だからね。」
ジ「…はい!」
レ「今夜は、気持ち良く眠れそうだわ。」
ジ「僕もです…!」
<7回目>
ジ「こんばんは、レイナさん。」
レ「こんばんは、ジャン。…何をしていたの?」
ジ「耳を澄ませるとですね…」
レ「え?」
ジ「目を閉じて、耳を澄ませると…色々な音が聞こえてきます。」
レ「ふうん…?」
ジ「何の音か、はっきり解るものもあるけど…殆どの音は、混じり合って良く解りません。」
レ「……?そうね…確かに。」
ジ「ちょっと怖くないですか?」
レ「そうね…正体が解らないと、確かに不安になるわ。警戒しなきゃって気にもなる…」
ジ「でも、それらの…解らない音を何の音なのかを探ろうとしないで…これはそういう存在なんだって、そのまま受け入れると…不思議と怖くなくなるんです。」
レ「へえ……そうなんだ…」
ジ「もちろん、敵襲に備えて常に警戒する事も大切なんですが…こうやって、色々な音を受け入れてる内に…警戒すべき音と、何もしてこない音が何となく解る様になった気がするんです。」
レ「凄いわ、ジャン。そんなの、神経がピリピリしてる私にはとても無理。」
ジ「臆病だから、こんな事考え出したんですけどね。そこがレイナさんと違う所です!」
レ「あははっ、そうかも。」
ジ「あはははっ。」
レ「……不思議なものね。夜、こうやってあなたと話すのが…なんか、当たり前みたいに感じて…」
ジ「僕もです!レイナさんと、こんなにお近づきになれるなんて…」
レ「いまさら他人行儀よ……あまり敬語を使わないで…」
ジ「すみません…あはは。でも、レイナさんは本当に尊敬できる人ですから。」
レ「あなたもよ、ジャン。今のあなたには、あなたにしか無い物がある。」
ジ「はい、僕はレイナさんにはない、僕にしか出来ない事でみんなを幸せにしたいと思ってます。」
レ「…ふふっ。」
ジ「何か?」
レ「いえ…キュートを護ってあげてね?あの子、無鉄砲だから……」
ジ「はい!その為に僕がいます!」
レ「ふふふふっ…今夜はなんだか、朝までお話したい気分よ。」
ジ「それも良いかも知れませんね…」