[[アリュッタ]]
#contents
*第一回 [#i839ef7e]
アリュッタ:
あなた、ちょっといい?
ジャン:
…え? 僕ですか?
アリュッタ:
そうよ。
あなた、結構まろんと親しそうに
してるけど、いったいどういう
関係なのかしら?
ジャン:
どういうって…仲間、ですけど。
アリュッタさんだって、
今はそうでしょう?
アリュッタ:
だーかーらー、
そうじゃなくって!
ただの仲間にしては、ちょっと
馴れ馴れしくし過ぎるんじゃない?
って言ってるの!
ジャン:
馴れ馴れしいって、
そんなこと言われても――。
アリュッタ:
私の見立てからすれば、
あなた、究極思考の料理に必要な
食材なんじゃないの?
ジャン:
僕が、しょ、食材ッ!?
アリュッタ:
そうでなければ、
まろんがあなたと
親しくしている理由がないわっ!
ジャン:
なんでそうなるんですかっ!
そもそも、まろんさんは
食材と仲良くするような
人なんですか!?
アリュッタ:
まろんが「食材だけが友達ですの」って
呟いているのを、さっき聞いたわよ。
ジャン:
それはきっと、
比喩的な表現かなにかですって!
アリュッタ:
ああもうっ!
いちいちウルサイわね。
食材が口答えしないっ!
ジャン:
だから僕は食材じゃ――。
*第二回 [#i839ef7e]
アリュッタ:
あら、ごきげんよう。食材のジャン。
ジャン:
出会い頭になんなんですか、
そのふたつ名!
アリュッタ:
じゃあ、割れ鍋のジャンが、いい?
ルーナが言ってたけど。
ジャン:
どちらも嫌です…
アリュッタ:
それじゃあやっぱり、
食材のジャンね。はい、決まり。
ジャン:
そんな勝手過ぎる――。
アリュッタ:
でも――。
確かにあなた、美味しそうよね。
食材というだけあって。
ジャン:
え、美味しそう…?
アリュッタ:
ええ、思わず食べてしまいたいくらい。
その、くちびるとか――(じゅるり)
ジャン:
あの…念のためにお聞きしますけど、
その「食べたい」っていうのは
比喩的表現ですよね?
比喩的表現だったら僕、
嬉しくてすごくドキドキして
しまうんですけど…
アリュッタ:
比喩?なにそれ?
私はただ、あなたを食べたい――。
ジャン:
うわ、わぁっ、ダメ!
食べないでくださいーーッ!
アリュッタ:
あ、待って――。
行っちゃったわね…
あの食材…確かに美味しそうだけど、
まろんも究極思考の料理に
必要としてるのよね。
捕獲して彼女に
プレゼントしてあげたら、
喜ぶかな――(ぽっ)
*第三回 [#i839ef7e]
アリュッタ:
あら、ジャン。こんにちは。
ジャン:
アリュッタさん、こんにちは
…って、なんですか!
その手に持ってるでっかい網は!?
虫取りですか? 魚取りですか?
それにしては大きい気がするんですけど。
人間がすっぽり入っちゃいそうな
レベルですよね、その網。
アリュッタ:
網…?
ああ、これはなんでもないから。
気にしなくていいわよ。
ジャン:
気にしなくていいと言われても、
大き過ぎて気になって
しまうんですが…
アリュッタ:
まあ、そんなことより…
よく考えたら、不思議よね。
食材が喋るなんて。
ジャン:
あ、あのー。アリュッタさん?
僕のこと、
まだ食材だと思ってたんですか?
アリュッタ:
まだもなにも、食材でしょうに。
ジャン:
ああっ、どうしたら
誤解が解けるんだろう…
アリュッタ:
……
ジャン:
……
アリュッタ:
スキアリッ!
ジャン:
う、うわぁっ!
そんな、網を振り回してなにを――っ。
アリュッタ:
決まってるじゃない、
食材を捕獲するのよ!
ジャン:
うわーっ! やめてくださいーっ!
アリュッタ:
逃げるなっ! 待てーーっ!
*第四回 [#i839ef7e]
ジャン:
あ、アリュッタさん。こんにちは…
アリュッタ:
あら、こんにちは。
ジャン:
今日は網、持ってないんですね?
アリュッタ:
私も、暇ではないから。
そんなにいつもいつも、
食材を追いかけていたりはしないわ。
ジャン:
そ、そうですか。
どうやら今日は安全日のようですね。
そう言えば、
前から気になってたんですけど…
アリュッタ:
なにが?
ジャン:
アリュッタさんと、まろんさんって、
どういう関係なんですか?
アリュッタ:
――ッ!
まろんですって!?
ジャン:
は、はい…
(しまった、
聞いちゃいけないことだったのかな?)
アリュッタ:
あの娘、私が料理で世界を
支配しようとしているのを邪魔する、
いやらしい娘なのよね。
簡単に言うと、
ライバル――かしら。
ジャン:
ライバルですか?
アリュッタ:
本当は、まろんなんて、私の
足元にも及ばないですから、ライバル
としては少々足りないのですけれども。
まあでも、
私は優しいですから?
時々、彼女には構ってあげたり
なんかしちゃったり…って、いやん。
そんな、まろんと構い構われ、
あんなことやそんなことだなんて――。
あん、もう、そんな、まろんってば!
あ、んんあ――っ。
ジャン:
あのー、アリュッタさん?
アリュッタ:
え? あ、コホン。なんでもないわ。
つまり私は、まろんなんか
アウトオブ眼中…と、
そういうことなのよ。
ジャン:
そうなんですか…
*第五回 [#i839ef7e]
ジャン:
あの、アリュッタさん。
アリュッタさんって、
料理うまいんですか?
アリュッタ:
ちょっと、失礼なこと聞くわね。
ジャン:
そういえば、アリュッタさんの料理、
食べたことないなぁ、って…
アリュッタ:
仕方がないわね。
食べさせてあげるわよ。
私の料理は世界級よ。
ジャン:
本当ですか? 嬉しいなぁ!
アリュッタ:
えーっと、ではさっそく。
用意するものは、牛肉かたまり300g、玉ねぎと
キャベツ1/2個、ジャガイモ大2個――。
それからニンニクが少々、サラダ油、
砂糖、塩、こしょう、
サワークリームを適当な感じで――。
ジャン:
なにをつくるんですか?
アリュッタ:
ボルシチよ。
ではまず、材料を
食べやすい大きさに切って――。
…と、調理を始めはしたものの、
面倒なので行程は省略するわ。
ジャン:
――え?
アリュッタ:
心配はご無用よ。
完成したものが、ここにあるから。
ジャン:
うわ、本当だ!
しかも、ほっかほかの出来立て。
アリュッタ:
さあ、召し上がれ。
ジャン:
ちょっとひっかかるところがあるけど、
とりあえず、いただきまーす!
…もぐもぐ、うん。美味しいっ!
これは本当に、美味しいです!
もぐもぐ、いくらでも
お代わりできそうです…っ。
アリュッタ:
……
…ぷぷっ!
ジャン:
…え? どうしたんですか、
アリュッタさん!?
アリュッタ:
あっははははは!
いや、ね、食材が料理を…
ぷぷっ! 食べてる――。
食材が、食材が! 食材が――。
もう、ダメ! なんかツボに
入っちゃった、あはははは――。
ジャン:
……
ごちそうさま、です――。
*第六回 [#i839ef7e]
アリュッタ:
あ、こんなとこにいたのね、あなた。
ジャン:
なんですか、アリュッタさん?
アリュッタ:
なんだかあっちの方に、
ジャンさん用の看板があったわよ?
ジャン:
僕用の…看板?
なんですかそれ?
アリュッタ:
さあ? 見てきたらどうですか?
ジャン:
は、はい…
よくわからないけど、行ってみますね。
あ、本当だ。
こんなところに看板が。
どれどれ――。
ジャン専用お風呂って
書いてあるけど、あの…
確かに看板の先にはお風呂は
あるんですけど、その上に
でっかい網があるのが気になるんです。
すごく気になるっ!
アリュッタ:
(じーーっ)
ジャン:
はっ!
しかも、物陰から
アリュッタさんが、
じーっと見張ってるし!
これ、あからさまに罠じゃないですか!
絶対にひっかかったりしませんからね!
アリュッタ:
――ちっ!
*第七回 [#i839ef7e]
ジャン:
アリュッタさん、アリュッタさん。
アリュッタ:
なにかしら? 食材。
ジャン:
食材って、そんな…
あ、そんなことよりも、ですね。
あちらの方に、
アリュッタさん専用の看板が
あったみたいですよ。
アリュッタ:
私専用の看板…?
ははぁん。
それ、あなたが仕込んだんじゃなくて?
ジャン
(ぎ、ぎくぅっ!)
まさかそんな!
僕がこの前の仕返しとばかりに、
罠の看板を仕込むような男に
見えますか!?
アリュッタ:
見えるわ。
まあ、でもせっかくだから
見に行ってあげるわね。
そして、罠の完成度の低さを、
思いっきり笑い飛ばしてあげる――。
…あ、あった。
この看板ね。どれどれ。
アリュッタさん専用お風呂
(女の子たくさん入ってます)
…ですってッ!?
女の子!
これは行かないワケには…っ!
あ、あれ?
上から網が…きゃあーっ!
ジャン:
ふっふっふ。
ひっかかってしまったようですね?
アリュッタ:
ジャン!?
しまった、悔しいっ!
ジャン:
これで少しは、網を持って追われる者の
気持ちがわかったかと思います…
もう、僕を捕まえようとしないって
約束してくれれば、出してあげますけど、
どうします?
アリュッタ:
誰が、そんな約束っ!
ジャン:
…ふっふっふ、それならば、
仕方がない。ちょっとイタズラして
懲らしめる必要がありそうですね――。
アリュッタ:
なによ、いやらしい目つきね。
ジャン:
いやらしいなんて、とんでもない…
さて、まずはその、
柔らかそうな太ももを――。
う、うわぁっ!
火が! 火がっ!
アリュッタ:
あなた、私が動けないと
思って油断したわね?
ふふ、クッキングバーナー、
持ってて良かったわ。
こんな網、簡単に
焼き切っちゃうんだから。
ジャン:
ああっ、そんな…
アリュッタ:
さて、と。形成逆転ね!
ジャン:
すみませんでした、許してくださーい!
アリュッタ:
誰が許すものですかっ! 待てーっ!
*第八回 [#i839ef7e]
アリュッタ:
ふふ、ついに捕まえたわ!
ジャン:
捕まってしまいました…
アリュッタ:
まさか、私がひっかかったのと、
同じ罠で捕らえることができるなんて、
思わなかったわ。
ジャン:
うう、自分で考えた罠なのに。
一生の不覚です――。
アリュッタ:
この食材をまろんにプレゼントすれば、
喜んでくれるに違いないわよね…
そしてきっと、
お礼にあんなことやこんなこと――。
うふふ、いひ。あは――。
ジャン:
…あのー、アリュッタさん?
ヨダレ出てますけど?
アリュッタ:
ん、コホン。
いけないいけない、
思わず思ったことが口に…
それはさておき、
捕えた食材は、ちゃんと
味見をしなくちゃ、ね。
ジャン:
味見…ですか?
アリュッタ:
と言っても、少しだけ
ペロッと舐める感じだけども。
それじゃ、さっそく。
いただきまーす――。
(ここから妄想キスシーン)
あなた、唇がプルプルしてておいしそうよね。
さて、どこから食べちゃおうかしら。
最後まで行ってません、追記お願いします。
(現実)
ジャン:
(アリュッタさん、
食べるならはやく僕を食べて…)
(…ああっ、
まだかな? まだかな?)
アリュッタ:
……
ジャン:
…あれ?
どうしたんですか、アリュッタさん?
味見しないんですか?
アリュッタ:
やっぱり止めたわ。
ジャン:
ど、どうしてなんですか?
アリュッタ:
生の食材を口にしたら、
きっとお腹を壊してしまうから。
だからまず、
火を通しておこうと思って。
ジャン:
火…を――?
アリュッタ:
ええ。熱湯の釜でグツグツ煮込むか、
あるいはたき火のなかに放り込んで
丸焼きにするか――。
ジャン:
ちょ、ちょっと待ってください!
待って! ダメ!
調理はダメ――っ!